炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)

炎症性腸疾患とは

炎症性腸疾患は、免疫機構の異常によって腸に炎症が起こる病気で、慢性的な下痢や血便、腹痛などの症状を経験します。主に潰瘍性大腸炎とクローン病の2種類があり、比較的若い方に発症しやすく、日本では患者数が増加しています。また、腸管ベーチェット病というまれな炎症性腸疾患も存在します。一般的に、命に直接的な危険はありませんが、一度発症すると完治することはまれであり、生涯にわたって治療を継続する必要があります。

潰瘍性大腸炎とは

この疾患は大腸の粘膜に炎症によるびらんや潰瘍が生じる慢性的な病気で、厚生労働省によって難病に指定されています。症状は他の炎症性腸疾患と類似しており、特にクローン病と似た症状が見られることもありますが、治療法や制限事項は異なるため、正確な鑑別が必要です。病因はまだ不明であり、免疫反応が過剰に働き、TNF-αという物質が過剰に産生されることが原因と考えられています。完治のための治療法はなく、適切な専門性の高い治療を受けることで症状をコントロールし、通常の生活を送ることができます。しかし、治療を怠ると重症化や合併症が発生し、入院や手術が必要になることもあります。他の臓器にも合併症を引き起こす可能性があるため、適切な管理が重要です。

潰瘍性大腸炎の原因

現在も明確な発症原因は解明されていません。腸内細菌の影響、自己免疫機能の異常、食生活の欧米化などが関係していると考えられています。

潰瘍性大腸炎の発症年齢

男性は20~24歳、女性は25~29歳で発症のピークを迎えることが多いですが、高齢の方でも発症リスクがあります。男女の発症に大きな差はないとされていますが、虫垂切除をした方は発症リスクが低下することや、喫煙者の発症リスクが低いことが報告されています。

潰瘍性大腸炎の症状

炎症性腸疾患の症状として、下痢や血便、腹痛が持続することがあります。重症化すると、発熱、貧血、体重減少などの全身的な症状が現れることもあります。さらに、皮膚や関節、眼にも合併症が起こる場合があります。

潰瘍性大腸炎の検査・診断

症状の経過や既往歴を問診することから潰瘍性大腸炎の診断が始まります。診断においては、血性下痢を引き起こす他の感染症との区別が重要であり、下痢を引き起こす他の細菌や感染症との鑑別診断を行います。また、内視鏡検査やレントゲン検査によって大腸の内部を観察し、大腸粘膜の一部を採取する生検を行い、病理診断を実施します。

大腸カメラ

潰瘍性大腸炎の治療

潰瘍性大腸炎の治療には、薬物療法や血球成分除去療法が主に用いられます。薬物療法では、5-ASA製剤の経口薬や注腸薬を使用します。活動期の寛解導入目的にはステロイド剤の経口薬や注腸薬が選択されることがあります。重症の患者には5-ASA製剤とステロイド剤が一般的ですが、抗TNF-α抗体製剤やタクロリムスなどの新しい治療薬も重症の患者に使用されることがあります。血球成分除去療法は、中等度以上の患者でステロイド治療の効果が不十分な場合に行われることがあります。

潰瘍性大腸炎と遺伝

近年、世界中の研究者によって潰瘍性大腸炎の発症に影響を与える特異的な遺伝子の存在が報告されています。一部の遺伝子型は発症しやすい傾向があることが分かっていますが、それらの遺伝子を持っているからといって必ずしも発症するとは限りません。発症には食生活などの環境要因との相互作用も考えられています。

クローン病とは

クローン病は消化管全域の粘膜に炎症を起こし、大腸や小腸にびらんや潰瘍を生じる慢性疾患です。原因は免疫反応の過剰により体内のTNF-αという物質が増えることで炎症が引き起こされますが、詳しい原因は未だ解明されておらず、難病とされています。症状は腹痛・下痢・血便などで、寛解期と活動期を繰り返しますが、潰瘍性大腸炎と似ているため正確な鑑別が必要です。治療は病変の部位により異なりますが、適切な治療で寛解期を長く保つことができます。しかし、悪化すると深刻な合併症が起こることがありますので、疑わしい症状があれば早めに相談することが重要です。

クローン病の原因

現在、クローン病の発症原因については完全に解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。遺伝的な要因、感染症による影響、食事成分による影響、血流障害などが考えられますが、詳細なメカニズムは不明です。
最近の研究では、遺伝的な要因が一部影響している可能性が示されており、特に免疫細胞であるリンパ球が食事や腸内細菌に過剰反応を起こすことで発症に寄与する可能性が考えられています。しかし、これらの要因が完全な原因ではなく、発症には複数の要素が絡んでいることが示されています。今後も継続的な研究が行われ、クローン病の原因と治療法についてより詳細な理解が進むことを期待しています。

クローン病の発症年齢

若い世代での発症が多く、男性では20~24歳、女性では15~19歳で発症がピークになります。男女比は約2:1で、男性の患者が多い傾向です。先進国、特に北米やヨーロッパでは発症率が高く、衛生環境や食生活が影響していると考えられています。特に高い生活水準の地域では、動物性脂肪やタンパク質の摂取が多く、これが発症率を上げる要因になっていると考えられます。また、喫煙をする習慣がある方も発症しやすい傾向にあります。

クローン病の症状

症状が発生する部位によって、様々な症状が現れます。主な症状としては下痢や腹痛があり、患者の半数以上に見られると言われています。また、下血、発熱、腹部の腫瘤、貧血、全身の倦怠感、体重減少などの症状も頻繁に観察されます。さらに、腸管の合併症(腫瘍、狭窄、瘻孔など)や腸管以外の合併症(肛門部の病変、結節性紅斑、虹彩炎、関節炎など)もしばしば発生します。クローン病は多岐にわたる症状を呈し、その影響は腸管にとどまらず全身に及ぶことがあります。

クローン病の検査・診断

クローン病が疑われる場合、大腸カメラや胃カメラを必要に応じて行います。診断は内視鏡検査の結果に基づいて行われます。

クローン病の治療

治療方法としては、薬物療法や食生活の改善が主要なアプローチとなり、症状の重さによっては外科的な治療も選択されることがあります。薬物療法では、軽度な症状や寛解期の患者には5ASA製剤が一般的に用いられ、近年では免疫抑制剤や抗TNFα抗体製剤といった新たな治療薬の有効性が高く評価されています。また、副作用が少ないブデソニドというステロイド剤の使用も増えています。食事指導では、下痢を誘発する動物性脂肪が多い揚げ物などを控え、消化しやすく低脂質な和食を中心とした食事を推奨しています。これらの治療法や改善策を総合的に取り入れることで、患者の症状の緩和や寛解の促進を目指します。

クローン病と遺伝

クローン病は遺伝性の疾患ではないものの、人種や地域によって発症率に差が見られ、家族内での発症例もあるため、遺伝的な要因が関与している可能性が考えられます。クローン病に発症しやすくなる遺伝子型がいくつか特定されていますが、それらの遺伝子を持っているからといって必ずしも発症するというわけではなく、むしろ環境要因との相互作用が発症に至る要因となると考えられています。つまり、クローン病の発症には遺伝的な要素と環境要因の複合的な影響が関与しているとされています。