- 肝機能異常を指摘された方へ
- 肝臓の役割
- 検査結果の見方
- 肝機能異常をもたらす病気
- 年齢別によく見られる肝機能異常
- 性別で見る肝機能異常
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)・甲状腺機能低下症(橋本病)の方へ
肝機能異常を指摘された方へ
「肝機能異常」とは、血液検査においてAST、ALT、ALP、γGTPの数値が異常な状態を指します。この異常は他の臓器の病気でも起こることがありますが、肝臓の病気であることが多いため、「肝機能異常」という表現が使われています。
一時的にかぜをひいたり激しい運動をしたりした場合でも、一時的にこれらの数値が上昇することがあり、「再検査(精密検査)したら全く正常であった」ということもあります。しかし、B型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎などの自己免疫性肝疾患が原因となっている場合もあります。そのため、「たぶん大丈夫でしょ」と放置せずに、精密検査を受けることが勧められます。
精密検査では、まず血液検査と腹部エコーが行われます。血液検査では、AST、ALT、ALP、γGTPの再測定だけでなく、肝炎ウイルスマーカーや自己抗体などの特殊な項目も測定されます。腹部エコーでは、肝臓や関連臓器を超音波で観察し、血液検査では検出しづらい物理的な異常がないかを調べます。当院には、肝臓専門医も在籍しています。健康診断や人間ドックなど、肝機能異常を指摘されたらご相談ください。
なぜ肝機能異常を放置してはいけないのか
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、肝機能障害が存在しても初期段階では自覚症状がほとんどなく、あっても風邪に似た症状で気付きにくいことがあります。肝機能障害が進行すると全身の倦怠感、むくみ、食欲不振、吐き気、発熱などの症状が現れる場合がありますが、これらの症状が現れるほどに病態が進行し、最終的に肝硬変や肝がんが発生する可能性があります。
近年、肥満や高血圧などの生活習慣病の患者数が増加しており、お酒をほとんど飲まない人でも脂肪肝になり、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と診断されるケースが増えています。この動向は深刻な問題として認識されています。
肝機能検査の精密検査とは
肝機能異常を指摘された方に対しては、より詳細な血液検査と腹部エコー検査を行います。血液検査の結果、何も問題ないこともありますが、再検査(精密検査)でより詳細な項目まで調べることで異常が見つかることもあります。腹部エコーに関しては、当院では肝臓専門医をはじめ、消化器内科を専門とする医師が行います。肝臓だけでなく、膵臓などもしっかり観察していきます。
肝臓の役割
肝臓は、私たちが食べたものを胃腸で消化吸収・分解し、栄養素の多くが蓄えられる重要な役割を担っています。蓄えられた栄養素は必要な時にエネルギーに変換され、身体活動に必要なタンパク質も合成します。また、脂肪やタンパク質の消化に必要な胆汁と呼ばれる消化酵素を分泌する役割も果たしています。さらに、肝臓は薬剤やアルコールなど、飲食物に含まれる体によくない物質を解毒する働きがあります。
肝臓の機能が低下すると、エネルギーやタンパク質の効率的な生成が妨げられ、有害物質の解毒が適切に行われなくなることがあります。
検査結果の見方
AST(GOT)・ALT(GPT)
ASTとALTは、肝臓の細胞で合成される酵素であり、アミノ酸の合成に関与しています。もし肝臓にダメージが加わり、肝細胞が損傷すると、ASTとALTが大量に血液中に放出され、血中濃度が上昇します。そのため、ASTとALTが上昇している場合は、急性肝炎や劇症肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変、肝がんなど肝臓に障害がある可能性が考えられます。
ただし、ALTのほとんどは肝臓の細胞に存在していますが、ASTは肝臓以外にも筋肉や赤血球中に存在しています。そのため、ALTがわずかに上昇しているのに対し、ASTだけが急激に上昇している場合は、肝臓以外の病気を考える必要があります。
γ-GTP
γ-GTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ)は、肝臓、腎臓、膵臓などの臓器に障害が生じたり、胆汁の排出路(肝内胆管、胆嚢、総胆管など)に異常がある場合に上昇する酵素です。特にアルコールとの関連が強いため、日常的に多くのアルコールを摂取する方はγ-GTPの値が上昇する傾向があります。アルコールによる一時的な上昇が疑われる場合は、1〜4週間程度の断酒を行い、γ-GTPを含む肝機能が改善するかどうかを確認することがあります。
γ-GTPの上昇に関連する病気としては、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝がん、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝炎、薬剤性肝障害、胆道系の疾患などが挙げられます。
総ビリルビン
ビリルビンは、古くなった赤血球が破壊される際に生じる黄色い色素であり、肝臓で処理された後に胆汁として胆道に排出されます。肝臓で処理される前のビリルビンを「間接ビリルビン」といい、胆汁中に排出されたビリルビンを「直接ビリルビン」と呼びます。これらの合計が総ビリルビン(T-BIL)となります。肝臓の機能が低下すると、間接ビリルビンが血中に増加し、皮膚や白目が黄色く変色する黄疸という症状が現れることがあります。
ビリルビンの上昇に関連する病気としては、肝炎、肝硬変、肝がん、胆道系の疾患、体質性黄疸などが考えられます。
肝機能異常を
もたらす病気
脂肪肝・肝硬変
脂肪肝は、肝臓に脂肪が異常に蓄積する状態で、主にアルコール摂取過多や肥満、糖尿病などが原因です。脂肪肝は初期段階では症状が現れにくく、健康診断などで偶然発見されることがあります。適切な生活習慣改善によって進行を防ぐことができます。
一方、肝硬変は肝臓の正常な組織が瘢痕組織に置き換わり、肝臓の機能が低下する状態です。脂肪肝が進行して肝炎やアルコール性肝障害が重なると起こります。肝硬変は症状が進行すると、腹部の水がたまる、黄疸、全身の倦怠感などが現れます。治療は早期の段階での原因の除去や適切な医療が必要です。肝硬変は進行すると肝がんのリスクが高まるため、早期発見・治療が重要です。
ウイルス性肝炎
ウイルス性肝炎は、A、B、C、D、E型などの肝炎ウイルスに感染することで起こる肝臓の病気です。A、E型は主に汚染された飲食水や二枚貝、ジビエ肉、内臓などを介して感染します。B、C、D型は輸血、注射器の使い回し、剃刀や歯ブラシの共用、入れ墨などによって主に血液を介して感染します。
日本ではB型とC型が多くの持続感染者を有しており、B型が110~120万人、C型が90~130万人と推定されています。持続感染すると自覚症状がないまま肝硬変や肝がんに進行するリスクが高まります。肝炎ウイルスの無料検査(B型・C型)や治療費の助成など、対策が行われています。
肝がん
肝臓がんは、主に3つに分類されます。1つは肝臓自体から発生する原発性肝がん、2つ目は肝臓内の胆管に発生する肝内胆管がん、そして3つ目は他の臓器から転移してきたがんが肝臓に広がる転移性肝がんです。肝がんは突然発生することは少なく、通常は10〜20年にわたる肝炎ウイルスへの長期感染や、アルコール性脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などの慢性的な肝障害が肝硬変に進行することで発症します。したがって、肝炎ウイルス検査を受けたことがない方や、日常的に多量の飲酒をしている方、数年にわたって肝機能障害と診断されているが無視している方は注意が必要です。
アルコール性肝炎
アルコール性脂肪肝は、飲酒過多によって引き起こされる脂肪肝の一種です。肝臓がアルコールを分解する際に生成されるアセトアルデヒドという有害物質が活性酸素を介して肝細胞を傷つけ、脂肪の分解が阻害され、中性脂肪が肝細胞に蓄積します。
1日に男性で30g以上の純エタノール(ビール750ml、日本酒1合半、ワイングラス2杯半、ウイスキーダブル1杯半相当)、女性で20g以上を継続して摂取すると、アルコール性肝障害を引き起こす可能性があります。ただし、肥満の方や日本人の約44%にあたるALDH2不活性型(アセトアルデヒドを分解する酵素が弱い先天的な特性)を持つ人は、より少量の飲酒でも肝障害を発症しやすいため注意が必要です。
アルコール性脂肪肝が進行すると、アルコール性肝炎、肝硬変、肝がんなどのリスクが高まります。そのため、悪化を防ぐためには断酒や節酒が重要です。典型的な症状としては食欲不振、倦怠感、発熱が挙げられ、肝臓が腫れると右上腹部痛や腹水(体内の液体が溜まる症状)、黄疸が現れることがあります。
非アルコール性脂肪性肝炎(NAFLD)
肝臓に関係する疾患のうち、アルコール以外の要因によって引き起こされる脂肪肝は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれます。過食、運動不足、肥満、糖尿病、脂質異常症などが原因となります。近年、肥満が増加しており、日本のNAFLD有病率は9~30%、患者数は1000万人以上にも上ると推定されています。なお、NAFLDには少量の飲酒をする人も含まれます。
NAFLDの大部分は進行しませんが、一部の場合(約1~2割)は肝硬変や肝がんへ進行する可能性があります。このような徐々に進行するタイプのNAFLDは「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」と呼ばれます。初期は症状がほとんど表れないため、定期的な血液検査や画像検査を行い、進行していないかを確認することが重要です。
自己免疫性肝疾患
自己免疫性肝炎は、免疫の異常によって長期間にわたって進行する肝炎で、特に女性に多く、男女比は1:6とされています。60歳前後の中年以降の女性に発症しやすいとされています。この疾患の原因は未だ解明されていませんが、遺伝的要素やA型肝炎ウイルス、伝染性単核症、サイトメガロウイルス、麻疹ウイルスなどのウイルス感染、一部の薬品などが誘発要因とされています。
自己免疫性肝炎と診断される方の約1/3には慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチなどの自己免疫疾患や膠原病が併発していることが特徴的です。適切な治療を行えば予後は一般的に良好ですが、適切な治療を怠った場合は他の肝臓の疾患よりも早期に肝硬変や肝不全へ進行する傾向があります。早期の発見と適切な治療が重要とされています。
薬剤性肝障害(薬剤性肝炎)
薬剤性肝炎は、医薬品の使用によって肝臓に異常な反応が生じ、肝炎(肝臓の炎症)を引き起こす病態です。薬剤性肝炎は様々な薬物によって発症することがあり、特に抗生物質、解熱鎮痛剤、抗がん剤、抗てんかん薬などがよく知られています。
薬剤性肝炎は個人差が大きく、同じ薬を使用してもすべての人に発症するわけではありません。また、症状や重症度も患者によって異なります。軽度の場合は自覚症状がなかったり、疲労感や消化不良などが現れることもありますが、重篤な場合は黄疸(皮膚や白目の黄ばみ)、肝臓の腫れや機能障害が生じることがあります。
薬剤性肝炎の発症機序は複雑で完全には解明されていませんが、薬物が直接肝細胞に作用して損傷を与えることや、免疫反応が関与することが考えられています。
年齢別に
よく見られる肝機能異常
20代〜30代の若年層
ウイルス性肝炎(特にB型・C型肝炎)が比較的多く見られます。輸血や注射器の使い回し、性行為などを通じて感染することが一般的です。
40代〜50代の中年層
脂肪肝や肝硬変が増加しています。肥満や過食、運動不足などの生活習慣の影響が大きいです。また、アルコールの摂取量が増えることも要因として挙げられます。
60代以降の高齢者
自己免疫性肝炎が見られることがあります。この年代では免疫のバランスが崩れやすく、自己免疫疾患が発症する可能性が高まります。
性別で見る肝機能異常
肝機能異常は、男性より女性のほうが起きやすいとされています。これは、女性ホルモンの影響により妊娠中や更年期などに肝臓の代謝機能が変動すること、女性は下半身に脂肪が堆積しやすく脂肪肝のリスクが高いこと、男性よりもアルコールの代謝速度が遅いことなどが影響します。
甲状腺機能亢進症
(バセドウ病)
甲状腺機能低下症
(橋本病)の方へ
肝機能は甲状腺機能によって影響を受けることがあります。たとえば、バセドウ病をはじめとする甲状腺機能亢進症では、肝臓での薬物代謝が促進され、ASTやALTの値が上昇することが考えられます。また、橋本病をはじめとする甲状腺機能低下症では、肝臓での薬物代謝が減少し、ASTやALTが低下することが考えらえます。こうした値は必ずしも変動するわけではないのですが、甲状腺疾患をお持ちで肝機能異常を指摘された方は、診察時に主治医に甲状腺疾患があることを伝えていただくと、より的確な検査・治療に繋がります。